【橋本コラム】『人工知能との戦い』2017年10月
2017/10/11 | 花まる学習会
先日、人工知能の開発コンテストを見学してきました。お題のイラストに対して複数の人工知能が大喜利の様にコメントを出し合い、より面白い方が勝ち進む、というトーナメント方式のコンテストです。今、人工知能がどの程度の「笑い」を生み出すことができるのかが大きなテーマでした。私がこのコンテストに興味を惹かれたのは、「人工知能が活躍できない分野は何か」ということを最近よく考える様になったためです。
10~20年後という近い将来、人工知能は我々の仕事のおよそ50%を代替するという予想があります。10~20年後といえば、ちょうど今の子ども達が社会に出て自立していく頃です。その時、もし仮に今ある仕事の半分が代替された社会が到来するとしたら、子ども達はどんな力を持っていれば、それから先の時代を生き抜くことができるのでしょうか。キーになるのは「人工知能ができないこと」つまり「人間にしかできないこと」をする力です。それが具体的にどんな力なのかを考える前に、まず、どんな仕事が代替されやすく、どんな仕事が代替されにくいのかを挙げてみます。
人工知能に代替されやすいとされている仕事は、例えば、税理士、調理師、経理事務、各種受付、単純作業員などです。対して、代替されにくい仕事は、アーティスト(音楽・絵画・映画・役者など)、インストラクター、デザイナー、ライター、などが挙げられます。それぞれの仕事の共通点を探すと、大まかに言って「計算・処理」と「創造・発想」というキーワードが浮かび上がるのではないでしょうか。つまり、「人間にしかできないこと」とは、「生み出す力」に根差しているといえます。税理士には創造性がないとか、全ての人間が芸術家にならなくてはいけないということではなく、仕事の中で「生み出す力」を発揮できる人間は、そうした社会でも仕事を失わず有利に生き延びるだろう、ということです。
では、子ども達が「生み出す力」を育むために、一体何が必要なのか。それは単純に「生み出した経験」だと私は考えています。そして花まるの授業には、毎回そのための時間があります。「たこマン」です。「たこマン」は「ふたこまマンガ」の略称で、紙1枚の至ってシンプルな教材です。紙の表には1コマ目の漫画が、裏には2コマ目のオチとなる漫画が描かれています。つまり、4コマ漫画の2コマ版です。子ども達は表の1コマ目を見て、次に来る自分だけのオチを発想します。そして、それを発表し合うのです。皆さんは、1コマ目を見た子ども達の様子をどんな風にイメージするでしょうか。しばらく考えてから、ちらほらと手が挙がっていく様子でしょうか。大人ならばそうでしょう。しかし、実際の子ども達は、1コマ目が出た瞬間に「はい!はいはい!」とこぞって手を挙げます。早く自分だけのオチを聞いてもらいたくてたまらない、という姿がそこにあるのです。たこマンは低学年用教材なのですが、先日の国語大会では「動け!たこマン」という、たこマンを子ども達が実際に演じて楽しむゲームが登場し、高学年の子ども達にもやはり好評でした。
子ども達が大好きなこの「たこマン」ですが、先日ある教室でこんなお題が出ました。バッターに向かってボールが飛んでくる。この後どうなる?というものです。バットが折れる、打球が宇宙まで飛んでいく、空振りで竜巻が起こる、ボールがバットにくっついちゃう、など様々なオチが出る中、その日一番の笑いをとったのは「ストライク!」でした。皆の予想を裏切り、オチがあまりに普通だったからです。こうした、笑いの妙というのは、人工知能が代替できないことのひとつです。ちなみに、冒頭で触れたコンテストでは「人工知能がボケる」こと自体に対する笑いはあったものの、内容そのものは既にあるコメントデータから関連語句を検索したに過ぎないもので、「発想」とは程遠いものでした。当分の間、「創造・発想」は人間の専門分野であり続けるでしょう。そしてそこに「たこマン」の意味もあり続けるのです。
橋本一馬
辻堂教室 水曜日・木曜日 担当